内部監査員の可能性 ISMS・プライバシーマーク取得企業への貢献

昨今では、ソーシャルエンジニアリングとフィッシング攻撃の増加、サプライチェーン攻撃、ゼロデイ攻撃など、人間の心理や脆弱性を悪用する手口が後を絶たない状況です。

企業組織は、従業員や組織の教育を強化し、サプライチェーンパートナーとのセキュリティに関する連携、ソフトウェアやシステムの定期的なアップデートなど多岐にわたる対応が求められています。

こうした状況において、企業組織内での情報セキュリティにおける「内部監査員」の存在について今一度検討する機会にしていただきたい。

今回は、内部監査員の役割やその必要性、ISMSとプライバシーマークに関わるところまで、掘り下げてご紹介していきます。

◆情報セキュリティにおける内部監査員

情報セキュリティにおける内部監査員は、組織内部でISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)や情報セキュリティポリシーに基づいて監査を実施する役割を担います。

具体的な役割を順次ご紹介していきます。

役割と責任

内部監査員は、情報セキュリティに関する方針や手順が適切に遵守されているかを確認する責任があります。

これには、セキュリティポリシーや手順書の遵守をはじめ、システムやネットワークのセキュリティ設定の確認、セキュリティインシデントへの対応状況の評価などが含まれます。

内部監査員は、組織内の各部門やプロセスに対して監査を行い、情報セキュリティのリスクや脆弱性を特定し、改善策を提案します。

また、監査の結果や課題を報告し、上級管理職や情報セキュリティチームと協力して対策を推進し、実施した対策の結果についてフォローアップ活動も行います。

スキルと資格

内部監査員には、情報セキュリティに関する知識や経験が必要です。

特に、情報セキュリティマネジメントシステムやセキュリティ標準である「ISO27001」、ISMS、プライバシーマークへの理解を持っているかどうかは重要視されるでしょう。

情報システム監査の専門家を認定する国際資格「Certified Information Systems Auditor(CISA)」を取得していることは、大きなアドバンテージになります。

また、内部監査のスキルや知識を磨くためのトレーニングや継続的な教育も同様に重要です。

内部監査員とISMS、プライバシーマークの関連性については別途後述していきます。

独立性と客観性

内部監査員は、独立性と客観性を保つことが重要で、監査業務を公平かつ客観的に実施して利益相反や偏見を排除することが理由です。

内部監査員は、組織内部の情報セキュリティプロセスや対策を客観的に評価し、適切なアクションを推奨することで、情報セキュリティの向上に貢献します。

コミュニケーション能力

優れたコミュニケーション能力も必要とされる場面は多いです。

監査結果や課題を明確かつ適切に報告し、関係者とのコミュニケーションを円滑に行うことで、情報セキュリティ対策の実施や改善促進に関わります。

◆企業組織にとって内部監査員は本当に必要か?

内部監査員について知ったこところで、「必要性」に疑問を感じるかもしれません。

ここでは、企業組織にとって内部監査員の必要性と、内部監査員がいないとどんなことが想定されるのかという部分を記載していきます。

内部監査員が企業組織に必要とされる理由は多岐にわたりますが、主要な理由を以下にまとめます。

リスク管理とコンプライアンス

内部監査員は、組織が法令や規制を遵守し、リスクを適切に管理しているかを確認します。

これにより、組織は法的なリスクや規制違反を防止し、コンプライアンスを確保します。

資産保護

内部監査員は、組織の資産(情報、システム、財産など)を適切に保護するための対策が実施されているかを評価します。

これにより、情報セキュリティや資産管理の強化が図られます。

品質と効率の向上

内部監査員は、組織内のプロセスや手順が効率的かつ適切に機能しているかを評価し、品質と効率の向上を支援します。

監査結果に基づいて改善策を提案し、組織全体のパフォーマンスを向上させます。

信頼性と透明性

内部監査員の活動により、組織の運営や意思決定プロセスが信頼性と透明性を持つことが確保されます。

これにより、ステークホルダーや利害関係者からの信頼を築き、組織の持続的な成長と発展を促進します。

不正や不祥事の予防と発見

内部監査員は、不正行為や不祥事が発生するリスクを評価し、予防策を提案します。

また、不正や不祥事が発生した場合には、早期に発見し、適切に対処することで、組織の信頼性と評判を守ります。

改善と学習

内部監査員は、監査結果や課題をもとに改善策を提案し、組織の学習と成長を支援します。持続的な改善を促進し、組織の競争力と適応力を高めます。

これらの理由から、内部監査員は組織内で重要な役割を果たし、組織の持続的な成長と安定性を支援するために必要不可欠と言えます。

もし内部監査員がいないと、内部コントロールの監視や評価が不十分になり、不正行為やミスの増加、規制違反のリスクが高まるといった状況が懸念されます。

一方で、経営者への監視不足にもつながる可能性も考えられます。

経営者の行動や意思決定が監視されにくくなることで、経営者の不正行為や権限の乱用が起こりやすくなることが予測されます。

こうした状態の組織は、組織としての信頼性や透明性が低下し、投資家や顧客、取引先との信頼関係が損なわれることにつながりかねません。

◆内部監査員とISMSとの関連

内部監査員を必要とした場合、やはりしっかりとしたスキルや知識を持ち得た担当者に役割を果たしてもらいたいところです。

内部監査員とISMSとの関連性をみていきます。

両者は非常に密接で、内部監査員がISMSを考慮した活動ができるかどうかは企業組織において非常に重要なポイントとなるため、主な関連性を説明します。

監査とISMSの適合性

内部監査員は、ISMSが適切に設計、実装、維持がそれぞれ機能しているかを監査します。

ISMSは、組織が情報セキュリティに関するリスクを評価し、適切な対策を講じるためのフレームワークです。

監査により、ISMSの適合性や効果を評価し、改善点を特定します。

リスク評価と監査

ISMSではリスク評価が重要な要素です。

内部監査員は、情報セキュリティのリスク評価プロセスを評価し、リスクが適切に識別され、評価され、対策が講じられているかを確認します。

また、リスク管理の効果を監査し、適切な改善策を提案します。

ポリシーと手順の評価

ISMSには情報セキュリティポリシーや手順が含まれます。

内部監査員は、これらのポリシーと手順が適切に定義され、実施されているかを評価します。監査により、ポリシーの遵守状況や手順の効果を検証し、適切な改善を提案します。

監査計画と報告

内部監査員は、ISMSに基づいて監査計画を策定し、実施します。監査の結果は詳細な報告書としてまとめられ、上級管理職や情報セキュリティチームに提出されます。

報告書には、ISMSの適合性や効果、改善点などが含まれます。

持続的改善と監査のサイクル

ISMSは持続的な改善を重視しています。

内部監査員は、定期的な監査を実施し、ISMSの効果や適合性を評価します。

監査の結果をもとに、ISMSの改善活動を推進し、情報セキュリティのレベルを向上させます。

このように、内部監査員はISMSと密接に関連し、ISMSの適合性、効果、持続的改善を確保するために重要な役割を果たします。

続いては、内部監査員とプライバシーマークの取得との関連性も合わせて解説していきます。

◆内部監査員とプライバシーマークの関連性

内部監査員はプライバシーマーク取得企業において、情報セキュリティと個人情報保護の適切な管理を支援し、企業が規制要件に適合して信頼性を確保するための重要な役割を果たします。

そのポイントを順次解説していきましょう。

コンプライアンスの確認

内部監査員は、プライバシーマーク取得企業において、プライバシーマークの適切な取り組みや規定に基づくコンプライアンスを確認します。

これにより、企業はプライバシーマークの取得条件を満たし、規制要件に適合することができます。

プライバシーポリシーの評価

内部監査員は、企業のプライバシーポリシーや個人情報の取り扱いに関する規定を監査し、適切な管理が行われているかを評価します。

プライバシーマーク取得企業は、個人情報の適切な取り扱いを保証するために、これらのポリシーの適合性を確認する必要があります。

情報セキュリティの評価

プライバシーマーク取得企業は、情報セキュリティにも配慮する必要があります。

内部監査員は、ISMSやセキュリティポリシーの適合性を確認し、個人情報の漏洩や不正アクセスなどのリスクを軽減するための対策を監査します。

リスク管理と改善

内部監査員は、プライバシーマーク取得企業における個人情報のリスク管理プロセスを監査し、改善点を特定します。

プライバシーマーク取得企業は、内部監査の結果をもとに、情報セキュリティやプライバシー保護のレベルを向上させるための改善活動を実施します。

外部評価と認証のサポート

プライバシーマーク取得企業は、定期的な内部監査を通じて情報セキュリティやプライバシー保護の適合性を確認し、外部評価や認証の準備をサポートします。

内部監査によって、企業は外部評価機関からの認証取得プロセスをスムーズに進めることができます。

以上のように、企業は内部監査員の活動を通じてプライバシーマーク取得に成功しやすい環境を構築できます。

プライバシーマーク取得は、組織の信頼性や競争力を高めることにつながり、企業が持続可能な成長を達成するために重要な役割を果たす相乗効果をもたらしてくれることが期待できます。

まとめ

情報セキュリティにおける内部監査員は、ISMSやプライバシーマークなどの規制に基づいて監査を行い、組織の情報セキュリティと個人情報保護を支援します。

彼らの役割は情報セキュリティポリシーの遵守やリスク管理、改善提案、外部評価のサポートなど多岐にわたります。

内部監査員は情報セキュリティの独立性と客観性を保ち、組織に信頼性と透明性をもたらします。

スキルを持った内部監査員を擁することは、長い目で見て企業組織に大きなメリットをもたらしてくれる可能性が高いことからも、必要となるコストは有効な投資と考えて差し支えないのではないでしょうか。