企業活動において、業務効率化やコスト削減のために外部委託は今や欠かせない戦略となっています。しかし、その一方で、委託先におけるセキュリティインシデントが、自社の事業活動に重大な影響を及ぼすリスクも増大しています。顧客情報や機密情報などの漏洩、システムダウンによる事業停止、風評被害など、その影響は計り知れません。
このような事態を避けるためには、委託先に対する適切なセキュリティ管理、すなわち「委託先管理」が非常に重要となります。本稿では、サイバーセキュリティの観点から見た委託先管理の概要と、特に注意すべきポイントについて解説していきます。
なぜ、委託先管理が重要なのか?
企業は、自社だけでなく、委託先を含むサプライチェーン全体でセキュリティレベルを維持する責任を負います。近年では、標的型攻撃などのサイバー攻撃において、セキュリティ対策の脆弱な企業を足掛かりに、最終的な攻撃対象である大企業のネットワークに侵入を試みるケースが増加しています。
もし、委託先でセキュリティインシデントが発生した場合、たとえ自社のセキュリティ対策が万全であったとしても、責任を免れることはできません。顧客や取引先からの信頼を失墜させ、ブランドイメージを大きく損なうだけでなく、訴訟問題に発展する可能性もあります。
委託先管理の全体像
委託先管理は、以下の3つのフェーズに分けられます。
- 事前対策(選定・契約)
委託先候補のセキュリティ対策状況を評価し、適切なセキュリティ基準を満たしている企業を選定します。また、契約段階でセキュリティに関する責任範囲や対応などを明確に定めておくことが重要です。
委託契約締結後、委託先が適切にセキュリティ対策を実施しているか、定期的な監視や監査を実施します。
万が一、委託先でセキュリティインシデントが発生した場合に備え、対応手順や連絡体制を事前に定めておく必要があります。
各フェーズにおける具体的な対策ポイント
1. 事前対策(選定・契約)
1-1. 委託先候補のセキュリティレベル評価
情報セキュリティに関する基本方針や体制、責任範囲などを明確に定義した文書を確認します。
取得状況や運用状況を確認し、国際標準規格に準拠したセキュリティ管理体制が整っているか評価します。
ファイアウォールやウイルス対策ソフトなど、基本的なセキュリティ対策の実施状況をヒアリングや現地調査を通して確認します。
従業員に対して、セキュリティ意識向上のための教育が実施されているか確認します。
1-2. セキュリティに関する契約内容の明確化
委託業務におけるセキュリティ責任を明確化し、契約書に明記します。
定期的な監査の実施を義務付け、監査項目や報告方法などを事前に決定します。
報告連絡体制や対応手順、責任範囲などを明確に定めておくことが重要です。
契約終了後のデータ消去や返却方法、セキュリティ維持に関する責任範囲などを明確化します。
2. 実行時対策(監視・監査)
定期的に委託先のセキュリティ対策状況を監査し、問題点があれば改善を促します。
最新の脅威情報や脆弱性情報などを共有し、委託先のセキュリティ対策強化を支援します。
委託先従業員向けのセキュリティ教育を実施し、セキュリティ意識向上を促します。
3. 事後対策(インシデント対応)
インシデント発生時の報告連絡体制、被害状況の把握、影響範囲の特定、復旧手順などを事前に定めておきます。
定期的にインシデント対応訓練を実施し、関係者間での連携強化を図ります。
インシデント発生の原因を究明し、再発防止策を講じることで、同様のインシデント発生を抑制します。
まとめ:委託先管理の重要性を再認識し、適切な対策を
委託先管理は、自社のセキュリティ対策を万全にするだけでは不十分であり、サプライチェーン全体でセキュリティレベルを高めていくことが重要です。
委託先を選定する際には、価格や納期だけでなく、セキュリティ対策状況を重要な評価項目として組み込む必要があります。また、契約段階でセキュリティに関する責任範囲や対応などを明確に定め、委託契約締結後も定期的な監視や監査を実施することで、委託先との連携を強化し、セキュリティレベルの維持・向上に努めましょう。
最後に、万が一、セキュリティインシデントが発生した場合に備え、迅速かつ適切に対応できるよう、事前に対応手順や連絡体制を整備しておくことが重要です。
委託先管理における評価手法や管理方法などお悩みを抱えているお客様、お気軽にお問い合わせください。