ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)関連ツール10選

企業組織の情報資産管理へのコンプライアンスや組織内外からの取り扱いへの注目の高まりからも、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の取得は大きなアドバンテージとなります。
こちらのコラムでは、ISMSを効果的に運用する上でのさまざまなツールを10選ご紹介し、情報資産保護にお役立ていただければ幸いです。

◆(1)ISMSにおけるリスクアセスメントツール

ISMSにおけるリスクアセスメントツールは、情報資産のリスクを特定、評価、管理するための重要なツールです。

これらのツールは、リスクマネジメントプロセスを効率化し、リスク対応策の優先順位を決定するのに役立つため、効果的に活用することは組織の情報セキュリティリスクを体系的に管理し、適切な対策を講じることにつながります。

リスクアセスメントツールの主要な機能としては、リスク特定のため情報資産に対する潜在的な脅威や脆弱性を特定し、資産のインベントリの作成や、各資産の重要性を評価します。

リスクの発生確率と影響を評価して、リスクマトリックスやヒートマップを使用して視覚的にリスクを表現できるものもあります。

同時にリスクを低減、移転、受容、回避するための対応策を特定し、各リスク対応策のコストと効果を評価します。

リスク対応策の実施状況と効果を定期的に監視し、リスク状況の変化に応じて対応策を見直して更新するなども役目のひとつです。

代表的なリスクアセスメントツールとしては、「RiskWatch」や「RiskLens」、「RSA Archer」、「LogicGate」などでしょう。

リスクアセスメントツールを選定するポイントとしては、「ユーザーインターフェースが直感的で使いやすいかどうか」「組織のニーズに合わせてツールをカスタマイズできるかどうか」「他のセキュリティツールやシステムと統合できるかどうか」「組織の成長に合わせてスケールアップできるかどうか」「ツールの導入と運用をサポートするためのトレーニングやサポートが充実しているかどうか」といった点を考慮してみてください。

◆(2)ISMSにおける脆弱性スキャナーツール

ISMSにおける脆弱性スキャナーは、システムやネットワークの脆弱性を自動的に検出し、修正するためのツールです。

これらのツールは、定期的なスキャンを通じてセキュリティホールを発見し、潜在的なリスクを管理するために使用されます。

主な機能としては、システム、ネットワーク、アプリケーションの脆弱性特定にはじまり、既知の脆弱性データベースを参照して脆弱性識別、評価と分析、リスクの優先順位の決定など行います。

また、脆弱性の修正方法やパッチ適用手順の提供や、修正の自動化をサポートしているものもあります。

代表的な脆弱性スキャナーツールとして、「Nessus」や「OpenVAS」、「Rapid7 Nexpose」、「Acunetix」があります。

選定のポイントとしては、「対象とするシステムやネットワーク、アプリケーションの範囲をカバーできるかのスキャン範囲」、「脆弱性データベースが定期的に更新され、新たな脆弱性に対応できるか」「スキャンの速度が適切で、誤検出が少ないかどうか」「他のセキュリティツールや管理システムと統合できるか」という点を注意してもらえると無難でしょう。

◆(3)ISMSにおけるセキュリティ情報及びイベント管理(SIEM)ツール

ISMSにおけるセキュリティ情報・SIEMツールは、組織のITインフラ全体から収集されるログデータを統合し、分析することで、セキュリティインシデントの検出と対応を支援する重要なポジションを担います。

SIEMツールは、リアルタイムでセキュリティイベントを監視し、潜在的な脅威を検出し、迅速な対応を可能にします。

主に備えている機能としては、ネットワークデバイス、サーバー、アプリケーション、セキュリティ機器などのソースからログデータを収集して一元的に管理します。

リアルタイム監視で異常検知やアラート発信を行い、インシデントの影響を最小限に抑えるための対応策を提供します。

また、インシデント対応プロセスの自動化や、自動化されたワークフローを使用した迅速な対応をサポートしているものもあります。

代表的なSIEMツールとしては、「Splunk」「IBM QRadar」「ArcSight(Micro Focus ArcSight)」「AlienVault (AT&T Cybersecurity) USM」などをご紹介しましょう。

SIEMツールの選定ポイントとしては、使いやすさや既存のシステムやツールと統合できるかなどはこれまでと同様に、「リアルタイムでのデータ処理と異常検知が可能かどうか」、「規制や標準に準拠したレポートや監査証跡を提供できるかどうか」という点も見ていただければと思います。

◆(4)ISMSにおけるインシデント管理ツール

ISMSにおけるインシデント管理ツールは、セキュリティインシデントの記録、追跡、対応を効率化するためのツールです。

インシデントの迅速な対応と解決を支援し、再発防止策の策定サポートを行います。

主な機能として、インシデント記録と分類を行い、インシデントの種類、影響範囲、発生日時、報告者などの情報を管理します。

また、インシデント対応プロセスの管理と進行状況の追跡も含みます。

インシデント対応のワークフローを自動化して効率を上げ、対応チーム間のコミュニケーション支援と、詳細と進捗状況をリアルタイムで共有します。

インシデント対応の全過程は記録して監査証跡を提供するため、規制や標準に準拠した対応を確実に行うことに役立ちます。

代表的なインシデント管理ツールとしては、「ServiceNow」「JIRA Service Management」「Splunk Phantom」「McAfee ePolicy Orchestrator」などでしょうか。

選定ポイントとしては、自動化機能とリアルタイムコミュニケーション機能があるかどうかをチェックしてもらうといいでしょう。

また、監査証跡を提供し、規制や標準に準拠した対応のため事後のレポート作成機能も見やすいものであるかの確認も推奨します。

◆(5)ISMSにおけるアクセス管理ツール

アクセス管理ツールは組織内の情報資産に対するアクセス制御を管理し、セキュリティの確保とコンプライアンス遵守を支援します。

ユーザーやデバイスの認証と認可、アクセス権の管理、監査の機能を提供することが主な役割です。

主な機能としては、ユーザーの身元確認を行うプロセスとして、パスワード、二要素認証(2FA)、生体認証などの認証手段をサポートし、認証されたユーザーに対して、特定のリソースや操作へのアクセス権を付与やアクセス制御ポリシーの管理などです。

また、ユーザーが一度のログインで複数のシステムやアプリケーションにアクセスできるよう利便性の向上とセキュリティを併用した機能も備え、GDPR、HIPAAなどの規制や標準に準拠したアクセス管理を行います。

代表的なアクセス管理ツールには、「Okta」や「Microsoft Azure Active Directory」「IBM Security Identity and Access Management」「Ping Identity」などが知られています。

選定ポイントしてはまず、「セキュリティ機能: 強力な認証と認可機能を備えているか」です。

規制や標準に準拠しているかもチェックして、運用する上での導入および運用コストが予算に合致しているかもご検討ください。

◆(6)ISMSにおけるデータ保護ツール

データ保護ツールは、組織の重要なデータを不正アクセス、流出、紛失から保護するためのツールです。

データの暗号化、データ損失防止(DLP)、バックアップとリカバリ、データガバナンスなどの機能を提供がメイン機能です。

主な機能としては、データの暗号化で不正アクセスからの保護、転送中および保存中のデータ暗号化のサポート、データ流出の防止、データの定期的なバックアップを実行し、災害時やシステム障害時などのトラブルでの復旧機能を有してデータの紛失に備えることが挙げられます。

代表的なデータ保護ツールとしては、「Symantec Data Loss Prevention (DLP)」「Veeam Backup & Replication」「Dell EMC Data Protection Suite」などでしょうか。

選定のポイントとしては、「強力な暗号化とデータ保護機能を提供しているか」が最も重要です。

他のセキュリティツールやシステムとの統合性や、規制や標準に準拠したものであるかもチェックポイントとなります。

◆(7)ISMSにおけるコンプライアンス管理ツール

コンプライアンス管理ツールは、組織が法規制や業界標準に従うためのプロセスを支援するツールです。

コンプライアンス要件の管理、監査の準備、リスク評価、およびコンプライアンス関連のレポート作成を担います。

主な機能としては、法規制や業界標準の要件を追跡や管理、コンプライアンス要件のライブラリと更新情報の提供です。

また、コンプライアンスに関するポリシーや手順の作成、配布、更新を行い、従業員への周知とトレーニング管理も重要な機能のひとつで、ユーザーのコンプライアンス状況を可視化するためのレポートやダッシュボードも提供しているものが多いです。

代表的なコンプライアンス管理ツールとして、「RSA Archer」「SAP GRC(Governance, Risk, and Compliance)」「MetricStream」「NAVEX Global」を挙げておきます。

選定ポイントとしては、「組織が従う必要がある法規制や標準に対応しているか」という法規制や業界標準に則っているかはチェックし、「ユーザーインターフェースが直感的で、管理が容易かどうか」、「監査やコンプライアンス報告のための正確なレポート機能があるか」はチェックしておくべきです。

◆(8)ISMSにおけるトレーニング・意識向上ツール

トレーニング・意識向上ツールは、従業員や関係者の情報セキュリティに関する知識や意識を向上させるためのツールです。

教育プログラム、トレーニングコース、シミュレーション、フィッシングテストなどを通じて情報セキュリティに関する理解を促進し、フィッシング攻撃やソーシャルエンジニアリングなどのリスクに対する警戒心を高め、セキュリティ意識の向上を図ることが目的となります。

主な機能としては、情報セキュリティの基本的な概念やベストプラクティスなどの教育プログラムの提供にはじまり、eラーニングコース、オンサイトトレーニングを組み合わせたトレーニングプログラムを実施します。

また、昨今被害が拡大し続けているフィッシング攻撃への模擬を行い、従業員のセキュリティ意識と対応力を評価するため、フィッシングメールやフィッシングサイトのリンクを含む模擬攻撃を学びます。

最近ではゲーム化されたトレーニングプログラムを通じて、従業員の関与と学習を促進するものや、インシデント対応のトレーニングやシナリオベースの演習を経験できるといった様々なサービスを提供するツールもあります。

代表的なトレーニングツールとして、「SANS Security Awareness」「Cofense(旧PhishMe)」「Cyberbit Range」「Infosec IQ」などご紹介します。

トレーニングツールの選定ポイントとしては、参加型のトレーニングを通じて実践的なスキルを身につけられるプラットフォームかどうか、またシミュレーション演習やゲーミフィケーション要素を取り入れたトレーニングがあるかどうかは重要になるかもしれません。

理由としては、ユーザーが当事者であることを認識してもらうには体験型であることが効果的という視点からです。

また、対応しているデバイスがパソコン、タブレット、スマートフォンなど複数種に対応しているかもチェックしておくとスムーズに利用できるでしょう。

◆(9)ISMSにおける監査ツール

監査ツールは、情報セキュリティポリシーや手順が適切に実施されているかを確認し、セキュリティリスクを評価することを目的としています。

内部監査や外部監査を支援し、組織が規制や標準に準拠しているかどうかを評価するのに役立ちます。

主な機能として、監査スケジュールや監査範囲を計画し、監査計画の策定と調整を支援します。

監査の実施と結果をレビューし、監査手順やチェックリストの作成、監査報告書の作成支援も行います。

また、監査結果を評価してセキュリティリスクや違反事項を特定する機能や、監査報告書の作成と報告プロセスを支援することも機能のひとつで、結果に基づいて改善施策を立案し、監査結果の追跡と改善活動を管理します。

代表的な監査ツールには「ACL GRC」「MetricStream」「SAP Audit Management」「Wolters Kluwer TeamMate」が挙げられます。

監査ツールを選定する際のポイントとしては、「監査ツールが組織の適用しているコンプライアンス要件や規制に適合しているか」、「ISO/IEC 27001などの情報セキュリティマネジメントシステム標準に対応しているかをチェック」の2つは必要です。

また、「利用する監査ツール自体がセキュリティ対策やプライバシー保護に対する高い基準を満たしているか」をチェックするのも重要で、データの暗号化、アクセス制御、監査ログの管理など、セキュリティ関連の機能が整備されているかも確認しておくと安全です。

◆(10)ISMSにおけるドキュメント管理ツール

ドキュメント管理ツールは、情報セキュリティポリシーや手順書、規程などの重要な文書を効果的に管理するためのシステムで、組織のニーズや要件に合った適切なドキュメント管理ツールを選定することが重要です。

主な機能として、ポリシー、手順書、規程などの文書を統合的に管理し、バージョン管理を行う文書管理にはじまり、文書の作成、承認、改訂、廃棄などのワークフローを管理、文書の承認や変更履歴を電子署名によって管理して文書の信頼性を確保するなどです。

また、文書の保管場所を確保し、定期的なバックアップを行うことで、文書の安全性と可用性を確保することも重要な機能です。

代表的な監査ツールには、「IBM Security Guardium Analyzer」「Dell Technologies」「Micro Focus Fortify」などでしょうか。

ツールの選定ポイントとしては、ドキュメントへのアクセス制御や電子署名など、セキュリティに関する機能が備わっているか確認することが重要です。

ユーザーが使いやすいインターフェースやワークフローが用意されているか、他のシステムやツールとの統合がスムーズに行えるかもチェックしておくと不要なトラブルも防げるでしょう。

◆まとめ

ISMSを効果的に運用するためのさまざまなツールを10選ご紹介してきました。

セキュリティに関する基準や手順が明確化されるため、組織内でのスムーズな連携と対応が可能となり、情報流出やサイバー攻撃から情報を守る能力が高まります。

また、法的規制や規制要件への適合が容易となり、顧客や取引先、パートナーなどに対する信頼性と信頼度を高めることにつながるため、中長期的な視点からもメリットは大きいです。

しかしながら、「結局どれを導入すればいいの?」という結論に至ったかもしれません。

セキュリティツール全般に言えることですが、性質上目に見えて効果もわかりにくいことと、選択肢が多彩すぎることからも混乱してしまうのは仕方ないものです。

組織に見合ったツールが判断できかねる、導入の必要性などお気軽にご相談ください。